じわじわやる
さてと。少しお金の話もしておこう。
大量の資金調達有りきで事業を始めたり、極端に儲かるだけの仕事から始めるのはあまりおすすめしない。
あなたが数年後にはサラリーマンやフリーターに戻ろうと思っているならそれでもいいと思うけど、僕がこのガイドを書いているのはあくまでも自分で始めた事業をやり続けることが前提で話を進めている。
事業をやり続けるには、様々な困難を乗り越えるのと同じくらい停滞期(うだつの上がらない時期)を楽しめることが大事だと思う。
目に見えて成果の上がらない努力「だけ」の期間(これをプラトーと言う)を楽しめないと事業を続けることは単なる苦痛でしかなくなる。
僕が強く提案したいのは「最後に勝つ」タイプの経営だ。
だから短期的な成功しか生まない要因は徹底的に排除していく(短期的な成功しか生まないとうことは遅かれ早かれ急激に失敗するということだ。あまりに急激に失敗すると、どこか遠くへ吹き飛んで二度とその業界に戻ってこれなくなることが多い)。
最後に勝つ曲線をトレンド、一時的にしか成功しない曲線をファッドと言ったりもする。
何か仕事を受ける時、事業の方針を決める時、他と何らかの契約を結ぶ時、それらがもたらすものがトレンドなのかファッドなのか、よくよく考えてみることだ。
あなたが「トレンドを好み、ファッドを避ける」と決めたなら、一つ覚悟しなければいけないことがある。
スタートアップしてしばらくは、あなたの事業オンリーの収入で食べていくことはちょっと難しいだろう、ということだ。
だから既存の会社を利用する。お金の面でも学習の面でも。
今これを読んでいるあなたが会社に勤めているなら、退職時期をいつにするかもう一回よーく考えてみよう。
僕は起業した当時、派遣社員でとあるIT企業に務めていた。
最初はサラリーマンをやりながら副業として今の事業を始めたのだ(心のなかでは当然事業のほうが「本業」だったけど)。
僕たちには爆発的な利益を生むアイデアも人脈も資金源もなかったから、ファッド路線は取りたくても取れなかった。
必然的に長いトレンド路線でじわじわやって行くしかなかった。
スタートしてからしばらくの間、事業による月間の収入が、悪いと数万円、良くてやっと20万円を超えたり超えなかったりという時期が続いた。
間違えないでほしい、この数字は「大人二人で」稼いだ月収である。
今となっては最初期に経験した経済的苦難に心から感謝しているが、当時は正直辛かった。
もうちょっと言うと辛いのはお金の問題というより心の問題だった。
僕は会社勤めで別のところから収入を確保してたわけだから生活はできた。
相方も早々にバイトを始めたのでなんとかやり繰りしていた。
辛さの原因、それは先行きに対する不安とか、あまりにも小さな数字を見た時に自尊心が軋む音だとか、そういうメンタル的なものだ。
多分この精神にじわじわ来るダメージに耐え切れなくなって事業を諦めてしまう人が跡を絶たないんだろうな、というのが容易に想像できた。
事業を副業で始めて、それがうまく行っちゃってから会社を辞めるっていうプランを採れるならその方がいい。
何もかもが不確実なんだから、進んで無茶ばかりする必要はないと思う。
実験しよう
ビジネス書なんかを立ち読みすると「自分を追い込め」的なことが書いてあることが多い。
でも、自分の追い込み方は人それぞれだから、この言葉だけを鵜呑みにしちゃうと大変な目に遭う。
僕は無茶な独立を2回やって、すごく酷い目に遭って、3回目でやっと何とかなった。
失敗した時は本当に酷い生活だったから、これを読んでいるあなたは同じ過ちを繰り返さないでほしい。
2回失敗した原因はどっちも同じだった。
「このビジネスモデルなら絶対行ける!俺は間違ってない」
恥ずかしいけど割りと本気でそう思ってた。
解説しよう!
まずもって「ビジネスモデル」なんてものはほとんど信用ならない。
絵に描いた餅とはよく言ったもので、どんなに精密に組まれたモデルでも、実践の場で利益を生まなければ食えないんです。
逆にビジネスモデルとしては地味で格好悪くても、誰か一人でもいいからお金を払って買ってくれる人を獲得できたやり方のほうが何千倍も価値がある。
だから、何かモデルみたいなものを思いついちゃったら、ひとまず実際にやってみよう。
会社が終わった後の自分の時間、お小遣い、貯金、なんでもいいけど、手持ちのリソースで実現できる範囲で小さく小さく実験してみることだ。
実験を繰り返してみれば必然的に分かるけど、絶対なんてものはこの世に存在しない!
ビジネスをやるからには売り手と買い手がいるわけで、互いにコントロールできない(最低でも)2つの意思決定があり、双方が合意して初めて取引は成り立つ。
ビジネスの世界は厳しいんじゃない。ランダム過ぎるのだ。
「ビジネスの世界は厳しい」みたいな言葉のエイリアスに現実を閉じ込めてしまうと、人間の単純な思考回路は線形の厳しさグラフを自動的に思い浮かべてしまう。
何かを順当に積み重ねていけば克服できる厳しさを思い描くのだ。
でも現実は違う。
複数の意思決定や思いも寄らない外部要因、そして何より世界で最もコントロールの難しい「自分」という存在のために、ビジネスの成功・失敗は非線形のランダムなグラフを描く。
予測不可能なものに「もっともらしい」モデルを無理矢理当てはめようとするから、「厳しさ」(みたいなもの)を乗り越えれば何とか成ると錯覚してしまう。
実際に人間のできることと言えば、そのメチャクチャなランダム性を受け入れて一歩一歩行動に移すことだけだ。
だから最初にやることは、あなたのビジネスの中で「ランダム性が低い(努力に比例して成功する可能性が高い)」部分と「手に負えない程ランダム性が高い」部分の境目を見分けることだ。
この点については営業活動が例として分かりやすい。
営業マンのタスクってこんな感じだと思う。
- アポイントを取る
- スケジューリングする
- プレゼンする
- 顧客の悩みを聞き出す
- 見積もりを提示する
- GOサインを貰って請求に至る
これらの「ものを売る」フェーズの中でランダム性が低い部分はどこだと思う?
最初のアポイントを取るところ「だけ」だ。
それ以降のタスクをあなたにはほぼコントロールできない(決定権がない)ということを肝に銘じておいたほうがいい。
「いやいや、俺は営業には自信があるんだ。そんなことないぜ。」と思った人もいるだろう。
じゃあなんで僕は「俺は間違ってない」と思って失敗したんだろう?
少なくとも本当に間違ってないかちょっとでも確認してみよう。
それからでも会社を辞めるのは遅くない。
営業について少し
コントロールできるのがアポイントだけなら、コンスタントにアポイントを取ることに注力しよう。
言い換えれば見込み客を獲得することに専念するのだ。
見込み客ができたら営業的なことは特に何もしない。
話を聞いたり、いっしょに食事をしたり、友達付き合いとなんら変わらない感じで別にいいと思う。
あとは、見込み客からお願いをされて、いざ売り込み(と言っても商品やサービスの内容をちゃんと説明するだけなんだけど)をしなくちゃいけないときのために自分の商材をよく理解する努力を怠らなければそれでOK。
こうして最初と最後に力を集中すると決めるだけで自然とリラックスできる。
ガツガツしたえげつない営業をしなくて済む。
会う度に商売の話しかしてこない奴から商品を買う気なんて起きないでしょう?
つまり営業手段は無茶なアウトバウンドだけじゃないってことだ。
半分ビジネス、半分友達みたいな仲間をたくさん作ればいい。
「営業しなきゃ」って焦ると狭苦しいやり方に縛られてしまう。
知らない人に電話をかけたり、ダサいチラシを作ったり、けばけばしいWebサイトを立ち上げたり、怪しいセミナーに顔を出したり・・・。
そんなの誰も(自分すらも!)喜ばないって内心は分かっているのに、目先の利益を確保するのに血眼になってると、いつしか「ビジネスモードの呪縛」から抜け出せなくなってしまう。
だからビジネスのついでに楽しくて尊敬できる仲間を見つけよう!ぐらいの気持ちで営業に取り組めば、変な方向にねじ曲げられる危険を避ける事ができる。
計画?なにそれ、食えんの?
こういう話をすると「事業計画は?」とか「達成すべき数値目標は?」とか言われそうだ(実際に言われたことはないけど、僕自身、最初はそこが不安だった)。
結論から言うと、Excel の forecast 関数に計算させた何の根拠もない右肩上がりのグラフなんて捨てちまえってことだ。
僕たち(人類)は本当に見積が下手くそだ。
その人類が作ったソフトウエアの見積もり用関数が正しく未来を予測できるわけがない。
事業計画なんて大層な名前で呼ぶから自分も周りもそれを過大評価する。
いっそのこと「事業妄想」ぐらいに格下げしたらいい。
訳の分からない数字が現実の業務に口出ししないように、頭から閉め出してしまおう。
その方がずっとモチベーションも仕事のクォリティも維持しやすい。
まだ起きてもいない未来のことを考えて一喜一憂するのはただの自己満足だ。
そんな暇があったら今やるべきことに全力を注ぐべきだとは思わないだろうか?
(だいたいにして、今の収入がこれ以上下がりようがないくらい微々たるものなら、あとは上がるしかないじゃないか。)
必要を見つける
では今やるべきことはなんだろう?
大雑把に言えば、あなただけが解決できる問題を見つけてそれに取り組めばいいのだ。
まずは問題意識を持って仕事に取り組む姿勢を磨こう。
取り組む問題はなかなか乗り越えるのが難しい厄介なやつがいい。
簡単に解決できるものや、(中身がややこしくても)みんなが群がってる問題は、放っておいたっていつか解決されちゃうからあまり個人のビジネスには向かない。
あなたの業界の中であなたが取り組むべき「必要」を見つけるのだ。
もっと絞り込んで、あなたの特定の顧客が必要としていることでもいい。
ともかく誰かが必要としてくれるものを創り出せるまで、無我夢中で取り組むべきだ。
誰も買ってくれなければ何をやっても意味が無い。
どうせ買ってもらうなら、その人に必要なものを売って喜んでもらったほうがいい。
たいして必要でないものを売りつけるのは売り手の身勝手というものだ。
買い手が本当にほしいものをいっしょに見つけて、あなたの手から渡してあげよう。
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