エフェクターにはどんなものがあるのかざっと見て行きましょう。

 

エフェクターとは


エフェクターとは、ある音に対して、特定の効果を与える機能のことです。

元の音を入力し、エフェクターはその音を受け取り、与えられた役割を果たし、その結果を次の入力へ引き継ぎます。最終的にはスピーカーやヘッドホンが全ての結果を受け取り、人間の耳に届けます。この概念から分かる通り、普段エフェクターとは意識せず使用している機器、例えばイコライザーやPAN、ボリュームなども立派なエフェクターであると言えます。イコライザーは特定の音域を強調し、PANは左右のバランスを調節し、ボリュームは出力音量を変化させます。

エフェクターは楽器や音楽機材の進歩とともに日々進化しており、常に新たなエフェクターが登場してくるので、全ての種類を把握するのは到底不可能ですが、エフェクトの概念、頻繁に使用されるオーソドックスなエフェクターの種類、またその機能などを理解しておくことは、音楽制作を行う上でとても役立つ知識となります。

オーソドックスなエフェクター群は、その特徴からいくつかのグループに分けることができます。

  • Ambience系 – 音に残響を与えるエフェクター
  • Modulation系 – 音を揺らすエフェクター
  • Dynamics系 – 音を歪ませるエフェクター

これらに加えて、コンプレッサー、フィルターなどがよく使われるエフェクターの代表格です。
以下でLiveのエフェクトを参照しながら、その詳細を見て行きましょう。

 

Ambience系 – 音を響かせる


 

Delay

一定間隔タイミングを遅らせた音を原音にミックスして再生することによって得られる効果をディレイといいます。

上の画像はLiveにマウントされている最も単純なディレイでその名も「Simple Delay」です。
Delay Time(LとRに分かれています)は、音をどの程度遅らせるかを決めるパラメータです。
Feedbackでディレイに送る元の音量を決めます。Feedbackが大きいほど、ディレイ効果も大きくなります。
Dry/Wetは、Delay TimeとFeedbackで調節されたディレイ音を、原音にどの程度混ぜるかを決定するパラメータです。Dryなほど原音そのまま、Wetなほどディレイ音の分量が増します。
 


こちらはFilter Delayです。その名の通り、Filterを通しながらディレイ音を生成してくれるエフェクターです。Filterとは(詳しくは後述しますが)、一定の周波数の出力を妨げる(フィルターする)エフェクターのことです。このようにLiveにはハイブリッド型のエフェクターが多数存在します。

 

Reverb

先に紹介したディレイは音の遅延時間が長いので、加えられた音が原音と分離して聞こえますが、音が遅延する間隔をぐっと短くすることでひとつの音が響いて残響音が鳴っているように聞こえます。この効果がリバーブです。

リバーブを使うとコンサートホールで音を鳴らしたような効果が得られます。ホールで音が響いている感じは、直接音(原音)と間接音(一度壁や天井に当たって跳ね返ってくる音)の組み合わせをシミュレートすることによって実現できます。リバーブの名称によく使われるHallやRoomなどの呼び方は、どの程度の広さを想定してリバーブのパラメータが設定されているかを端的に表しています。
また、アナログ機器として開発されたスプリングリバーブやプレートリバーブなどは独特の暖かみがあり、それらをモデリングしたエフェクターの名称として今も生き残っています。

このような仕組みを踏まえると、リバーブのパラメータにDecay TimeやScaleなどが備わっているかが理解できるでしょう。

 

Modulation系 – 音を揺らす


音を揺らす効果を得るためにはいくつかの手法があります。

  • 音量またはLRのバランスを周期的に変化させる
    トレモロ、オートパンなど
  • 音程を周期的に変化させる
    ビブラート、コーラス、フランジャー

また、この他に、原音から音程を変化させた音成分を扱うピッチシフターや、原音の位相を変化させるフェイザーなどがあります。こちらもModulation系の一種として取り上げます。

 

Tremolo/Auto Pan

Liveではトレモロとオートパンの区別はありません。デフォルトで「Auto Pan」という名称のエフェクトが用意されています。このエフェクター1つで、周期的な音量変化と左右(LR)へ振り分ける音量の変化をコントロールできます。

Auto Panの左右への振り分けを無視するためにPhaseを0°に設定した例です。所謂、ギターやキーボードに使用するモノラルのトレモロエフェクターと同様の効果が得られます。
 

こちらはPhaseの度数を上げてオートパンの効果を加えたものです。

その他のパラメータについて解説します。
Amountは音量変化無しの状態と変化の最大値との差を設定します。
Rateは音量を加減させる周期のスピード。
Shapeは、音量が-から+、+から-へ変化する際の坂の角度を調整します。
Offsetは音量が加減する周期のどの位置からエフェクトをスタートさせるかを決定するパラメータです。

 

Vibrato/ Chorus/ Flanger

トレモロが音量を周期的に変化させることによって音の揺れを作り出すのに対し、音程を微妙に上下させて揺れ(または震え)の効果を得るのがビブラートです。
ビブラート効果を与えた音と、ビブラートさせる前の原音をミックスさせる手法で作り出されるのがコーラスというエフェクトです。同じメロディを複数で合唱すると微妙な音程のずれから独特のハーモニーが生まれます。これがコーラスというエフェクターの名の由来です。
なお、原音に対してミックスされるビブラート音の深さが大きいものがコーラス、小さなものがフランジャーとなります。
フランジャーとはジェット機のような音色を作り出すエフェクトですが、原理はコーラスと全く一緒なのです。
 

Liveの場合、ビブラートという名前のエフェクトは単体では用意されていませんが、前述のように、コーラスのDry/WetをWet側にMaxにした設定でビブラートと同様になります。
 

こちらがフランジャーの設定画面ですが、コーラスにはないEnvelopeというパラメータが付いています。これはジェット気流のような効果音の立ち上がりと伸びを制御するためのパラメータです。

 

Phaser

フェイザー(またはフェイズシフター)は原音から位相(フェイズ)を変化させた音をミックスすることにより音(=波)の干渉作用を利用して独特のシュワーという揺れを生み出すエフェクターです。
 

フランジャーのジェット音と同様、音色が周期的に変化する特徴があります。パラメータの種類や配置もフランジャーとよく似ています。

 

Pitch Shifter

原音の音程(ピッチ)を一定の度数ずらした音を生成するエフェクターをピッチシフターと言います。
 

Liveには「Resonators」というエフェクターがあります。これは複数のピッチシフターとフィルターを組み合わせたエフェクターですが、かなり複雑なピッチシフトの組み合わせを作ることができ、原音素材が単音だったとしても、あたかも和音演奏しているような効果も実現できます。

 

Dynamics系 – 音を歪ませる


アナログ回路のギターアンプなどでは、原音の音質を損なわずに音量を増幅できる範囲に限界があり、限界を超える=クリッピングが発生すると、音が割れたようなまたは潰れたような音色に変化します。これがディストーションです。

なお、ギターエフェクターの場合、歪み音の音色の違いからオーバードライブ、ディストーション、ファズなど別々の名称で製品化されています。
 

オーバードライブはディストーションやファズよりも歪みが柔らかく、音量を上げて行くと徐々に歪んで行くという特徴があります(ソフトクリッピング)。

ディストーションとファズに共通する特徴は、どちらも激しい歪み音を生成する点と、増幅の限界に達すると急激に歪み音に変化する点(ハードクリッピング)です。

ディストーションとファズは歪み音の元である倍音の生成過程に違いがあり、一般にファズの方がより粒の粗い印象があります。また、一般的な使用において、ディストーションは割合小さな音量で演奏しても歪みが発生するように、逆にファズはある程度以上の音量から歪みが発生するように設定されることが多いようです。

 

Liveには、主に「Drive」というパラメータの名称で各所に歪みを生成するダイヤルが組み込まれていますが、エフェクターとして単体で歪みを加える代表的なものを2つご紹介します。
 

「Dynamic Tube」はチューブアンプの歪みをモデリングしたエフェクターです。Toneの設定に少々癖があって、場合によっては音が全体的にこもったような感じになることもあります。アナログ感が強いエフェクターです。
 

「Saturator」はDynamic Tubeよりもよりくっきりとした音色の歪みを得意とします。ほんの少し歪みを加えた暖かみのあるゲイン効果としてマスターエフェクトにも使えるほどシンプルな歪み加減が特徴です。

 


 

Basic系 – ないと困るエフェクター


順序が逆になった感がありますが、最後に「これがないと困るエフェクター」を紹介します。
これまで紹介したエフェクター類はかけた瞬間に効果がはっきりと分かり、エフェクターの概念を理解しやすいものでしたが、以下に解説するものは、その効果がはっきりとは分かりにくかったり、または、使い方に馴染むまで少々慣れが必要なものを集めてみました。

 

Equalizer

録音機器またはメディアそのものの録音/再生能力が現在のようには高くなかった時代、どうしても増幅されがちな低音をカットし、減退しがちな高音域を強調するなどの目的で開発されたのがイコライザーです。つまり元々は音を揃える(元の演奏とイコールになるよう調整する)ためのエフェクターでした。
 

イコライザーは帯域毎にゲインの調整が出来るため、特定の音域を強調させたり、逆に要らない音域をカットするなどの目的で使用できます。
 

最も簡単に操作できるのがこの「EQ Three」です。その名の通り3バンドEQで、大雑把にHigh, Mid, Lowの3段階で音域の強弱をコントロールできます。
 

こちらは「EQ Eight」というエフェクターで最大8つのポイントを設定して音域の強弱を設定できます。また、Stereoで左右別々にEQの値を設定することも可能です。

なお、楽器の演奏をあたかも人の声のように聞かせるワウ(Wah)は、強調する周波数帯域を時間の経過とともに変化させることによって得られる効果です。
Liveではこの原理に基づいて人間の声をシミュレートするEQパターンが、EQ Eightのプリセットの中に用意されていますので、機会があればお試しください。

 

Filter

EQよりも更にざくっと周波数成分を分離するのがフィルターというエフェクターです。
 

フィルターには主に次のような種類があります。

  • HPF(High-Pass Filter)
    高域通過フィルター
  • LPF(Low-Pass Filter)
    低域通過フィルター
  • BPF(Band-Pass Filter)
    帯域通過フィルター(特定の帯域のみ通過させる)
  • BEF(Band-Eliminate Filter)
    帯域阻止フィルター(特定の帯域だけを減衰させる)

 

中央にあるこちらのパラメータ が、左からHPF, LPF, BPF, BEFとなっており、用途に応じて切り替えることによってフィルター特性を選ぶことができます。
 

Compressor

音量が小さなものと大きなもののばらつき(これをダイナミクスと言ったりします)を圧縮し、小さなものは大きく、大きなものは小さくすることによって音の粒を揃えるのがコンプレッサーです。ただ単に圧縮だけを行うと全体の音量が小さくなってしまうので、音量を稼ぐためのゲインをコンプレッションと組み合わせて使います。ちなみに音量が極端に大きくピークを越えてしまう部分(オーバーフロー)に注目して、設定した値よりも大きい振幅を一律に揃える仕事をするものをリミッターと呼びます。
 

LiveではThreshold(スレッショルド)スライダーで圧縮する振幅を調節します。振幅が大きければ自然なコンプレッション効果となり、逆に小さいと、狭い範囲にぎゅっと詰まったような独特の効果を得ることができます。
Outputスライダーは圧縮した波形の最大音量を決定するパラメータです。
 

Gate

コンプレッサー(というよりむしろリミッター)に相対するエフェクターがゲイトです。
ゲイトは、Thresholdで設定した値よりも大きい音量のみ通過させ、それよりも小さい音量の部分は減衰させます。
 

生演奏の録音などを行ったとき、どうしても入り込んでしまう小さな背景音(スピーカーのヒスノイズなど)を削る用途に使うこともできますし、Attack, Hold, Releaseのパラメータをうまく調整して通過させる音を絞り込んで行くと、ピークの前後がずばっと切れて詰まったような効果を得ることも可能です。

 

Spectrum

このコラムの最後は、音に変化を与えない「Spectrum」というエフェクターを紹介します。エフェクターというより計算機と言った方が妥当です。
 

画像はほんの一例ですが、現在再生されている音の成分がどのように分布しているかを表示してくれます。このマップを見ながら、イコライザーやコンプレッサーのパラメータを設定して行くと的確に音質を調整することができます。

また、ラップトップでライブ演奏をする際、その場所の空間特性やスピーカーの癖などに左右されて、準備段階で想定したような音楽的効果が得られないことがしばしばあります(例えば、ボリュームは十分出ているはずなのに、低音が迫力に欠けたり、高音域がはっきり聞こえなかったり)。そういった場合にこのSpectrumを表示させながらEQなどのパラメータをいじって行くと、その場所で響きやすい帯域や逆に響きにくい帯域を耳と数値で確認することができ、値を修正する手がかりをつかむことができます。

 

参考書籍: C言語ではじめる音のプログラミング―サウンドエフェクトの信号処理 (青木直史 著)

 

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§364 · By · 7月 5, 2011 ·