自信過剰からくる楽観主義をトレーニングによって克服できるだろうか。この点に関して、私は楽観的にはなれない。
 
(中略)
 
組織であれば楽観主義をうまく抑えられるかもしれない。また個人の集団よりは一人の個人のほうが抑えやすいだろう。そのために一番よいと考えられるのは、私の「敵対的な共同研究者」ゲーリー・クラインが考え出した方法である。やり方は簡単で、何か重要な決定に立ち至ったとき、まだそれを正式に発表しないうちに、その決定をよく知っている人たちに集まってもらう。そして、「いまが一年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。すると大失敗に終わりました。どんなふうに失敗したのか、5 ~ 10分でその経過を簡単にまとめてください」と頼む。
 
クラインはこの方法を「死亡前死因分析(premortem)」と名付けている。
 
ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか? – ダニエル・カーネマン (著), 村井 章子 (翻訳) より引用
 

 
 
これは素晴らしいやり方だと思った。
 
特に自信過剰になりがちな人や、一部の人が大きな主導権を握ってる組織の中では絶大な効果を発揮する気がする。
 
僕も次からのミーティングで何か決定しなきゃいけないときには是非やってみようと思う。
 
 
フリーで仕事をしていると、お金の面でも時間の面でも取れるリスクの幅はそれほど大きくない(企業から見たら無視できるくらい小さなリスクで簡単に吹き飛んでしまうのがフリーランスの哀しいところだ・・・)。
 
フリーランスで且つ自由な時間が多く取れると、アイデアもたくさん湧くし、クライアントからの要望を掘り下げていろいろやってあげたくなってしまう。
 
でも、たいして必要とされないことを無理してやり続けてしまうと、あっという間に自分で自分の首を絞めるような状況に陥りやすい。
 
自分に好都合な内部要因を拾い集めてもっともらしいストーリーをでっち上げ、それに固執して計画を実行していくことは誰にだってできる。
 
難しいのは、外部要因がその計画の成功を望んでない、若しくは邪魔しにかかっていることに気付いて適切にピボット(方向転換)することである。
(ちなみにこのピボットを効率的にやりましょうというのが、最近流行りのリーン方式ってやつ。)
 
 
更に難しいことがある。
 
選択の問題だ。
 
 
アイデアは日常的に沢山湧いて来るし、それを実行するための才能にも行動力にも恵まれている人 – フリーランスにはこういうタイプの人が多い。
 
このタイプの人は、目が覚めるようなアイデアに出会うと、居ても立ってもいられなくなる。
 
自分が個人事業であることも一時的に忘れてしまって、大きなリソースを注ぎ込む。
 
もう自分はこのアイデア一本に賭けるんだ!とでも言わんばかりに熱中する。
 
 
うん。ちょっと冷静になってみよう。
 
 
もっといいアイデアなんて、放っておいたって毎日のように湧いてくるんじゃない?。
 
なんでそれが唯一絶対のアイデアだなんて言える?
 
そして案の定、いつしか迷い始める。
 
現実に最初のアイデアよりもずっとずっと魅力的なアイデアを思い付いてしまったからだ。
 
 
僕にも実際こういう経験はある。うん、いや、山ほどある。
 
 
湧いてきたアイデアはどれも妥当な正当性を持ち合わせていて、どれかを捨ててしまうなんてアイデアを思い付いた時点では想像もできない。
 
でも結果はどうだろう?
 
そういう無数の「素晴らしい」アイデアの内、現実世界で実行されたのはどのくらい?
 
現実世界で実行されたアイデアの内、成功した数は? 失敗した数は?
 
 
趣味の範囲のアイデアだったらどんなものでも試してみればいいと思うけど、生活がかかっている仕事のアイデアとなるとそうも行かない。
 
とは言え、今まではどうやって効率よくアイデアの取捨選択をすればいいか分からなかった(もっと言うとそれほど真剣に考えていなかった)。
 
 
クラインの「死亡前死因分析」はこの問題に対する気の利いた答えのひとつだと思う。
 
 
つまりそれぞれのアイデアの一年後、しかも「死亡した」一年後を想像してみるのだ。
 
そうやってアイデアたちを過酷な世界(バーチャルだけど、より容赦はなくなるよね)に放り込んで、死因(=反証)を見つけ出すんだ。
 
 
多分、見栄えの良し悪しに関わらず、くだらないアイデアは一年後を待たずに死んでしまう。
 
(一年後には全てのアイデアが死んでると仮定するから)幸運にも一年間生き延びたアイデアにさえ、死因を分析しなきゃいけない(←ここがミソ)。
 
どんなに妥当な理由で一年間生き延びても、ありきたりな死因で死亡するアイデアにはあまり大きく賭けない方が良さそうだ。
 
逆に、死因が現実に起こる可能性が低いものなら、そのアイデアを実行に移す価値がありそうだ。
 
 
でもどんなに突飛な死因に見えても、起きる可能性はゼロじゃないから、ちゃんとどこかにメモしておいた方がいい。
 
このメモにはありがたい副作用がある。
 
アイデアの実行中に押し寄せる情報に対してノイズとシグナルを分別できるのだ。
 
これは実行者にとって本当にありがたい。
 
不確実性に支配された「未来」を進むのは、濃い霧の中を懐中電灯一つで歩くのに似ているからだ。
 
 
みなさんも何か決断を迫られたら是非「死亡前死因分析」をやってみて、自信過剰からくる楽観主義を抑え込むのと同時にリスクを明確化してみることをおすすめする。
 
 
 

 

§1424 · Posted By · 2月 9, 2014 · Business · Tags: · [Print]