何もない人のためのスタートアップガイド というのを書いてみた。
これは僕がここ2年くらいの間、自営業で独立するために色々試行錯誤しながらやってみたり考えたりしたことをまとめたドキュメントだ。
ある人にはガイドになると思うし、ある人には取るに足らない雑文だと思う。
「こうすれば上手くいくよ」と言えるものなんて何もない。
だから、「実際にこんな風に考えて、僕的にはこうしてみた。結果は最後まで分からないけど、今は運良く回ってる」みたいなことが中心に書いてある。
正確に言うなら、ガイドよりエッセイ(考えをまとめるためにあっちへ行ったりこっちへ寄り道したりしながら書く文章)に近いと思う。
この投稿では、せっかくなので、ガイドに書き切れなかったことを少し書こうと思う。
きっかけは何でもいい
独立したい、独立しようと思うきっかけは何でもいいと思う。
自分自身のことを言えば、単にタイミングだったとしか言い様がない。
子供の頃、両親が自営業だった。
でも子供の頃は画家か宇宙物理学者になりたかったから、独立開業は大人になってから考え始めたことだ。
僕は酷い怠け者で、画家は早々に諦めたし、学校をろくに卒業できなかったから研究者なんて夢のまた夢で終わった。
学校にあんまり行かなかったから働き始めるのは早かった。
ビジネスの世界を転々としているうちに、まぁそのうち独立するんだろうなと漠然と思い始めた。
ガイド中にも書いたけど、過去に2回独立を決意して失敗した。
失敗した2回を振り返ってみると、その時のほうがなんか凄い決意があったように思う。
今回、運良くご飯が食べれるようになった独立の方が、ビジョンみたいなものは薄い。
「きっかけは何だったんですか?」と聞かれてもあまりうまく答えられない。
憶えてないし、目の前の仕事を(怠け者らしく)楽に終わらせたいと試行錯誤してたらこうなった。
ガイドの中でも「計画」ってやつがいかに信用ならないかを書いてる。
人類は見積が下手くそだ(ガイドの中でも言ってる。何度でも言う)。
仮に、今のあなたが過去に作った計画の中で行動しているとしよう。
あなたは過去に未来(今のこと)を見積もった時にどんなことを考え、何を基準に意思決定したかはっきり思い出せるだろうか?
今のあなたは計画された通りのことをやり遂げているだろうか?
そもそもどんな風になったら計画成功か検証する術はあるだろうか?
現在から未来を予想するのも同じことだ。
現在分かっていることを元に未来を予想したって、未来のあなたは現在のあなたが真剣に考え抜いたことをきれいさっぱり忘れてしまう。
未来を予想する「計画」の時間軸が長くなればなるほど、とんでもない誤差が出やすい。
計画なんてほとんどデタラメだなんて書くと、スーツとネクタイで血の巡りの悪くなった連中からこんな風に言われそうだ。
「高い視点で状況を分析して、過ちを防ぎつつ不測の事態には柔軟に対応するためにこそ、しっかりした事業計画が必要なんじゃないかな? チームが一丸となって計画に取り組み、マイルストーン毎に定点観測する。それがPDCAサイクルの下で・・・」云々。
そういうのは従業員をガキ扱いする腐った大企業でしか価値のない考え方だ。
計画を作ることを仕事にしてる(ってのがそもそも不可解だが)ことで飯が食える連中が言い出すのは、たいていその計画とやらをもっともらしく見せるためのお飾りみたいな意見だ。
やつらは誰も読まない書類を山ほど作り、それを押し通すための劣悪なルールを次々とクラウド上のシェアスペースに貼り付けていく。
実際に顧客と接して、本当に実のある仕事に心血を注いでいる従業員からしてみれば、邪魔者以外の何者でもない(会社の資産を食いつぶしてゴミを撒き散らす悪ガキみたいなもんだ)。
独立しようとしてるあなたは、少なくとも自分のビジネスのことは自分で考えられる「大人」であることを祈る。
今正に独立を準備しているなら、大層な「計画」(もっと悪いのは長期計画)なんてものに多大な時間を費やすのはよそう(計画を作ることが仕事の連中が一人じゃ生き延びられないことを思い出そう)。
だいたい、計画を作るだけで疲れ果ててしまったら、それこそ本末転倒だ。しかもその「計画」は概して何の信頼性も無いんだから。
そんな絵に描いた餅を眺めてうっとりすることより、今すぐにでも手を動かせる仕事を探してほしいと思う。
その仕事が割りと長い間付き合って行っても楽しそうだなと思ったら、それが独立のきっかけになるんじゃないかと思うよ。
足るを知る
独立するとき、当てずっぽうの「計画」だけでお金を集めようとしちゃいけない。
でも残念ながら、業界によっては絵に描いた餅で1億円でも引っ張ってこれちゃう。
そういう世の中のシステムに釣られて欲張りすぎると、もっと強欲な人たちのいいカモになるだけだ。
別に1億円とかの極端なお金じゃなくても、棚から牡丹餅的に、必要以上のお金が急に入ったら危険信号だと思った方がいい。
自分が生きていくのに最低限必要な額よりもずっと上の値にアンカー(錨)が置かれることになるからだ。
一旦心理的にアンカーが置かれてしまうと、それ以降の収入について、余計に嵩増しされた額を基準に考えるようになる。
例えば、月に必要な金額は27万円だとしよう。
これまでの収入は25万円から30万円の間を行ったり来たり。
そこに急に50万円の単発案件が入ってきた。
その他の普段こなしてる仕事からの収入(仮に30万としよう)と合わさって、その月の収入が80万円になっちゃったとする。
ここが運命の分かれ目だ。
(いや、運命なんてものはそもそも無いんだけれども。)
あなたはこの嵩増しされた分(ここでは50万円)に対してどう考えるだろうか?
- この収入アップは自分の実力が世間に認められた証拠だ。来月からも引き続きこのペースで収入がある(いや、更に上る)に違いない
- 今月はすごくラッキーだったな。まぁでもこれは単に運が良かっただけだろうな
50万円の(一時的かもしれない)収入アップを実力と思うか、ランダムな波の一部と見切るかで事業に対する考え方が大きく分かれると思う。
収入アップを「実力」と過信した人は、80万円にアンカーを置くことになる。
収入が更にアップしたら、もっと高いところに「実力」のアンカーを置くかも。
でも、ちょっと冷静に考えてみよう。
もしその「実力」だと思っていたものが運だったら?
その運が平均回帰を起こして、急に収入が半減したら?
人は心理的に、得をすることに対する喜びよりも、損をした時の不快感のほうに過剰反応しやすく、しかもずっと後まで引きずってしまう傾向にある。
この自信過剰な人の落ち込んだ収入がデフォルトの27万円(生活に必要な額)よりも高い40万円だったとしても状況は良くならない。
それどころか更に悪化する。
それまで数ヶ月100万円前後の収入が運良く続いていたとしたら、減った60万円が彼の自尊心を深く傷つけてしまうからだ。
彼が100万円の収入を「実力」だと思い込んでいたことを思い出そう。
収入が40%になっちまったってことは、実力に対する評価が60%も減ったと思っちゃうわけだ(なんと彼の仕事に対する評価は実際何にも変わってないのに!)。
独立すると収入はびっくりするくらい変動する。
サラリーマンみたいに収入の上限にアンカーを置くことがずっと許され続けた人は、お金に対するメンタル的なコントロールに十分注意した方がいい。
あんまり説明するまでも無い気がするけど、27万円からアンカーを動かさなかった懸命な彼はどうだろう。
彼のようにランダム性を見極めるタイプの人間は、収入が上がろうが下がろうがマイペースに仕事に打ち込むだけだ。
アンカーより上の層で上下する金額は単なる運の摂動運動でしかない。
アンカーを下回るような事態が訪れた時の保険としていくらか貯金に回してもいいし、それでも余ったら自分の事業に再投資でもしようかなぐらいにしか考えない。
(でも内心は正直どうでもいいと思ってる。)
運が勝手に運んできたものにはとらわれない。
だからいつも冷静で居られるし、がっつくような営業もしないし、無理にスケジュールを詰め込むようなこともない。
サラリーマンの時は周りから追い立てられるように仕事をしたり、冗談みたいな意見を大声で言わされたりしていることに価値があったかもしれないけど、独立すると、そういう働き方は自分の首を絞めるだけだと悟る。
フリーになると「気楽に生きる」ことがすごく大事だと実感する。
それにはまず自分の必要な分はどれくらいか知らなくちゃいけない。
「足るを知る」ってやつだ。
無知を認める
- このアイデアは絶対に上手く行く
- 大きなことを達成するためにはより大きなビジョンが必要だ。まずは計画を立ててみよう
- チームが今よりも効率的に生産性を上げるためには、もっとちゃんとしたルールを設けなきゃいけないね
- うちのサービスは他よりずっと優れてるのに、何であのクライアントはさっさと俺達に決めないんだ
これみんな何を隠そうこの僕が過去に口走った失言の数々だ。
正に赤面モノだけど、人間はこうやって間違いを犯しながら痛い思いをして経験から学ぶ。
本ばっかり読んでても駄目だ。実際にやってみないと。
(ガイドには勉強しろっていう章があるけど、勉強だけしてても駄目だってことを書き忘れた。なんでか分からないけど、失敗を散々経験した後に見事な解決策が書いている本に出会うことはしばしばある。もっと早く言ってくれればと思うけど、人生そう上手くは行かない。)
人間は自分が思っている以上にたくさんのことを知らない。
更に言うと、知っていると思っていることの中で、実践して理解に至ったことなんてほんの一握りだ。
その一握りの理解も、時間の経過とともに忘れてしまう。
さっき「気楽に生きる」って書いたけど、その秘訣はさっさと無知を認めることだ。
知ったかぶりしたり、見えを張り続けたりすると、問題は大きくなる一方だということを自分に言い聞かせよう。
何に対しても正直に。
間違ったら(できれば誰よりも先に)自分が馬鹿だったことを認めて謝ろう。
気楽に生きることは、言い換えると抱え込まないことと同義だと思う。
何でも正直に行動したいと思う人は、多分、多分だけど、会社に留まっているより、自分自身がビジネスオーナーになって商売した方がいい。
そう思って 何もない人のためのスタートアップガイド を書いた。
これから独立しようと思ってる人に少しでも参考になってくれたら嬉しい。
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