素材固有のBPMとLiveのマスターテンポがかけ離れると、実際の再生音が劣化してしまうことがあります。

 

LiveのVersion.7以降は、それ以前のVerに比べて格段に再生機能が強化され、音質の劣化を最小限に食い止めるよう設計されていますが、それでも音の感じ方には個人差があり、できる限り素材そのものの音質を活かしたいという欲求も相まって、「音質を劣化させずに再生するにはどうしたらいいか」と試行錯誤されることと思います。

 

ひとつ確実なことは、素材自身が「僕はもともとこのBPMです」と宣言している値と、マスターテンポの値が一致していれば、素材の音質は保たれたまま再生されるということです。

最も簡単な例は、再生される素材がひとつしかない例です。
この場合、素材が宣言しているBPMの値にマスターテンポを書き換えてしまえば、音質劣化の問題は解決します。

 

次に簡単なのが、マスターテンポに従わないというアナーキーなやり方です。
操作は簡単です。素材の「Warp」という機能をOFFにしてあげれば、マスターテンポを無視して素材は再生されます。その代わり、それがLoopを前提とする素材の場合、WarpをOFFにすることによって、Loop機能もOFFになってしまいます。
この問題を解決するに、リサンプリングというテクニックを使いLoop素材を仕切り直すようなことを行う場合もあります。

 

いずれの方法を取るにしても、せっかくLiveを使っているのに、BPMと音質対策に縛られるあまり、一度にひとつの素材しか再生できない、または、素材がLoopしないというのは宝の持ち腐れです。

そこで、素材そのものの可変幅(BPMを上げたり下げたりしても音質への影響が少なくて済む範囲)を広く取っておいて素材を組み合わせれば、BPMを自由に設定できる幅も広がります。

しかしこれにはLiveへ素材を読み込む前段階で準備が必要です。
音質の高い素材を準備し、使用することで、素材を再生するBPMの可変幅を広げることができます。

 

音質の高い素材とは、拡張子で言うと.aiff(AIFFオーディオ)や.wav(WAVオーディオ)というファイル形式のものです。これらはファイルサイズも大きい分、音質も高くなります。

逆に、.m4a(AACオーディオ)や.mp3(MP3オーディオ)のような拡張子の音ファイルは、サイズは小さくて省スペースですが、音質はAIFFやWAVに比べて低くなります。

また、Liveを使用する上で一つ注意なのが、AACやMP3の音ファイルを取り込む際、Liveはそのままでは扱えないため、AIFF形式に変換している点です。
このとき、AIFFに変換することによって音質が良くなることはありません(後述)。
また、ここで言う変換とは、元のファイルを書き換えるのではなく、AIFF版を複製すると言った方が正確です。つまり、省スペースが売りのAACやMP3も、Liveで扱うために、何倍もの大きさのあるクローンが生成されてしまいます。しかも音質はAACやMP3当時のままという、まるで木偶の坊なクローンができてしまいます。

これを避けるために、あらかじめAIFF形式の音ファイルを用意しておきLiveに取り込むことをお勧めします。

AIFF形式の音ファイルは、Liveがネイティヴで扱えるファイル形式ですので、余計な変換やクローン生成を行いません。

 

さて、「音質が高い」とは一体どういうことでしょうか?

言い換えれば、「再現精度が高い」ということです。

 

人間が自然に耳にしている「音」そのものは、いかなるメディアにも閉じ込められていないため、その音の持つ全ての要素が「再生」されています。人間の耳は、その「再生音」のうちの身体的に捉えることのできる範囲を音として認識しています。

人間が音をコンピュータで操作するためには、CDや音ファイルなどのメディアに、音を一旦閉じ込めなければなりません。この時、メディアの器に入りきらない部分、または、人間の耳に必要のない(と想定されている)部分は、優先して省かれます。つまりメディアの器が大きいほど、かつ、音を採取する作業が細かいほど、高い音質(=自然の音に近い音質)で音を記録することができます。

 

先ほど、「AIFFやWAVは音質が高くサイズが大きい、逆にAACやMP3は、音質は悪いがサイズは小さい」と説明しましたが、その分かれ目は音の採取方法にあります。

 

AACやMP3は、難しい言葉で言うと非可逆圧縮という方法でサイズを小さくしています。
非可逆圧縮を文字どおりに訳せば「逆には戻らない圧縮方式」ということです。
非可逆圧縮は、圧縮(サイズを小さくする)過程で、余計なものを容赦なくどんどん捨てていくことで身軽になり、その分サイズを減らします。非可逆圧縮したファイルを元の大きなサイズに戻してしまうと、占領しているスペースだけが広くなって中身がすっからかんのファイルが出来上がってしまいます。そういう事情で「大きいサイズに戻しても使い物にならんよ」という意味で非可逆圧縮という名前が付けられています。

 

LiveにAACやMP3を取り込むとき、非可逆圧縮のファイル(小さいファイル)に対して、無理やり大きいサイズにする変換を行っています。
AACやMP3からAIFFへ変換されたファイルは、素材固有のBPMで鳴らされている限りは、変換前の音質と変わりなく再生されます(とはいえこの時点で元からAIFFのファイルに音質面で劣ります)が、BPMの可変幅が大きくなると、とたんに音質の劣化を招きやすくなりますので注意が必要です。

 
 

ここですいません、ちゃぶ台をひっくり返すようなことを言って申し訳ないのですが、音質劣化もエフェクター効果の一種と捉えることも(場合によっては)できます。実際、世の中にはビットクラッシャーなんていう、わざと音を劣化させるエフェクターが存在するくらいです。
音の劣化具合をエフェクトと捉えた時、AIFFとAAC(またはWAVとMP3)のどちらを使うか、それは完全に個人の好みの問題となります。

 

ただし、最後に一つ申し上げたいのは、コンピュータは「大→小」の変換は得意でも「小→大」の変換は苦手ということです。大は小を兼ねるの法則です。
ですので、LiveをそれこそライブやDJの本番で活用したいとお考えの方は、余計な音質劣化を避けるために、元の素材をAIFFで管理しておくことをお勧めします。

 

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§339 · By · 7月 5, 2011 ·